ー Syntegon Global News ー
製薬業界が作り出す新薬は、多くの患者の寿命を劇的に延ばしています。しかし新薬開発に係るコストは日に日に増加し、他の業界よりも多くの資源を過剰に消費していると言われています。この状況に対応して、多くの製薬会社は持続可能性の実現に向けて、製造プロセスの見直しを急速に進めています。製薬会社のサスティナビリティに関する課題解決に貢献し、目標達成をサポートできるのが製造機器メーカーです。この協力関係こそが、両者にとって新しい価値と可能性を生み出すと期待されます。
製薬業界は、約 2 万の企業で構成され、その影響力は全世界で顕著です。ただし、この業界は売上高だけでなく、CO2 排出量においても大きなインパクトを持っています。マックマスター大学のデータによれば 、 2015 年1の医薬品産業の二酸化炭素換算量(CO2e)は、売上 100 万ドルあたり約 50 トンで、その年の全世界での売上は 9,620 億ドルに達しました。驚くべきことに、この業界の CO2 排出量は、自動車 産業の 55%2も上回る数値です。
製薬企業は課題に直面しています。命に直結する医薬品を市場に供給するため、品質を確保しながら、所定の期間内に製品を届ける使命があります。一方で、生産から供給に至るまでのプロセスでの CO2 排出量を大幅に削減するプレッシャーが増しています。両方を実現するためのソリューションを模索する中、業界では炭素排出削減技術へのイノベーションが急速に進行しています。事実、国際製薬団体連合会(IFPMA)に所属する主要企業のうち 80%以上が、CO2 排出を最大限に削減し、カーボンニュートラルの実現を目指すしています3。
製造機器メーカーの果たす役割
国際製薬団体連合会をはじめ、多くの大手製薬会社は野心的な目標を掲げています。例として、ロシュ社 は 2029 年までにカーボンフットプリントを半減4するとしており、バイエル社は 2050 年に温室効果 ガスのネットゼロ達成5を目指しています。一方、ノボ ノルディスク社は 2045 年までに同じ目標6を、 そしてベーリンガーインゲルハイム社は 2030 年までに事業活動のカーボンニュートラル化7を目指しています。
異なるアプローチを取りながらも、これらの企業で共有するのは、サスティナビリティへの取り組みのビジョンです。このビジョンは製薬業界にとどまらず、広範囲な産業に影響を及ぼします。カーボンフットプリントの計算、科学的根拠に基づく目標設定、持続可能性レポートは、製薬会社だけでなく製造機器メーカーにとっても必須となっています。なぜなら、全ての製薬会社のカーボンフットプリントには設備の CO2 排出量が含まれており、製造機器メーカーはこの分野で中心的な役割を果たしているからです。設備は一度導入されると数十年にわたり影響を持つため、製造機器の選定は CO2 削減の主要なアプローチとなります。製造機器メーカーは、機器の最適化やエネルギー効率の高いソリューショ ンの開発を通じて、製薬会社の持続可能性目標達成をサポートする重要なパートナーとなります。
購買決定を後押するカーボンフットプリント
EcoVadis のような評価機関は、多角的なサスティナビリティ基準に基づいて企業を評価します。この ような査定を受けることで、製造機器メーカーはその持続可能性への取り組みを確認でき、これが製薬会社との信頼関係構築に役立ちます。さらに、CDP(正式には"Carbon Disclosure Project = カー ボン・ディスクロージャー・プロジェクト"として知られる)や SBTi (Science Based Targets Initiative = 科学的根拠に基づく目標設定のイニシアチブ)といった枠組みに参加することで、明確で 透明性の高い改善目標を推進することが可能です。近年、製造機器メーカーにおいては、技術、市場価格、所 有全体コスト(TOC)、設備の CO2 排出量が購入決定の重要な要因となっています。
さらに、ソフトウェアを活用した CO2 排出量分析は、大手メーカーの間で有益なツールとしての地位 を確立しています。加工・包装設備の生涯排出量は、機器のライフサイクルを通じて定量化され、検証されます。なお、CO2 排出量の大部分(80~90%以上)は機器の使用中に発生するため、分析は主にこの段階に焦点を当てて行われます。主要なパラメータには、放出される熱、電力、圧縮空気やそ の他の媒体の使用が考慮されます。製薬業界では、このような CO2 排出レポートを利用して、排出量削減のための設備投資の方向性を決定する一方、機器メーカーはレポートを通じて今後の技術的最適化の道筋を探ることができます。
生産プロセスとサスティナビリティ
製薬業界において、サプライチェーンの持続可能性は極めて重要な戦略の一部となっています。機器のカーボンフットプリントを詳細に把握することで、代替的な生産方法を示唆し、より効果的な意思 決定をサポートできます。例として、製薬業者が非経口用の注射用水( WFI)の生産において、膜法や蒸留法を選択する際の影響を考えてみましょう。分析によると、低温の WFI 生産方法は、伝統的な高 温製法に比べて最大 90%の CO2 排出を削減できます。高温保存を活用する低温製法でも、高温製法に比べて CO2 排出は 40%以上減少します。さらに、ソフトウェアを最新化することで、蒸留装置が待 機モード時のエネルギーと水の消費を大幅に、最大 90%削減することが可能です。
新しい梱包資材の可能性
生産プロセスの各段階で環境への影響を削減する取り組みが進められており、その中心には代替梱包資材があります。注射剤などの液剤は、ガラスや使い捨てプラスチックといった伝統的な一次包装への縛りがありますが、固形剤の1次包装にはバイオマスPEを多層にしたPPシートの使用実績が出てきています。特に、リサイクル可能で生分解性のある材料の利用やリサイクルPETフィルムが増加しています。また、外箱や二次包装には紙ベースの材料が主流となっています。
包装機器メーカーや製紙会社は、環境への影響を低減しつつ、現行の製造ラインを活用する方法を探求しています。例えば、栄養補助食品向けの紙ベースのブリスターパックは、熱の影響から製品を保護する層も持っています。柔軟に対応可能な製造ラインの採用により、新しい包装技術の開発コストを抑えつつ環境負荷を軽減することが期待されます。革新的な取り組みは不可欠で、材料の研究から パッケージ設計、テストまでの一貫したサービスの提供は、次世代の包装技術や機器の発展を促進することが期待されます。
共にサステナブルな未来を築き上げる
製薬業界は、現在の取り組みを継続させると、20 年後にクライメイト・ニュートラルを達成できる可能性があります。長期的に、サステナビリティの動きは「ビッグ・ファーマ」だけでなく、製造受託企業や小規模な製薬会社も含めた多くの企業にも影響を与えるでしょう。製造機器メーカーはこの機会を活かし、製薬会社との持続的な関係を深めていく必要があります。製品の生産や輸送、廃棄物削減、機器の更新、エネルギー効率の向上は今後サステナビリティと追及していく際の主要な取り組みとなります。また、機器のソフトウェアのアップデートや CO2 排出分析もエネルギー効率向上の鍵となる可能性があります。
初期段階からサスティナビリティ戦略に取り組んできた製造機器メーカーは、新しい省エネオプションや設備ソリューションを取り入れることで、競争優位性を獲得できます。技術的な可能性を絶えず探ることで、イノベーションを基盤とした持続可能な製薬環境を築くことができます。
[2] https://www.southpole.com/de/klimaschutz-pharmaindustrie
[4] https://www.roche.com/about/sustainability/environment/goals-performance/
[5] https://www.bayer.com/en/sustainability/climate-protection
シンテゴンテクノロジーのライフサイクル評価
機器のデータ分析の先駆者として、シンテゴンは自社の包装設備のカーボンフットプリントを算出する独自手法を導入しました。この計算法はテュフラインランド 社からの認証を受け、電力、圧縮空気、媒体、包装資材などの要因を取り入れています。食品部門のカートン包装機械だけでなく、医薬品部門のカプセル充填機 GKF720 も、CO2 排出計算法の向上に貢献しています。この手法を通じて、当社は CO2 排出と関連要因を特定し、顧客ごとに個別のアプローチで全体的な消費を評価します。この分析は、機器のライフサイクル全体、つまり製造から輸送、稼働、廃棄に至るまでを網羅しています。得られ たデータを基に、シンテゴンテクノロジーは持続可能な生産とコスト削減のために、顧客の機器や プロセスの最適化をサポートしています。
システムを継続的に最適化し、エネルギー効率を向上させ る革新的な取り組みを進めることで、製造機器メーカーは 製薬会社のサスティナビリティの目標に寄与しています。
膜法による注射用水(WFI)製造は、蒸留法と比較して最大 90%の排出量削減になります。
ソフトウェアのアップデートにより、待機状態における蒸 留設備でのエネルギーと水の消費量を最大 90%削減できま す。
包括的な CO2 排出量分析では、製造、輸送、稼働、廃棄 までを含む、設備のライフサイクル全体を考慮していま す。
シンテゴンテクノロジーの カプセル充填機GKF720 は、 テュフ認証済みの新たな CO2 排出量計算方法の策定におい て、貴重な洞察をもたらしました。